前回は養成講座(求職者支援訓練)の申し込みについて紹介しました。今回は約6か月間の養成講座をどのように過ごしていくべきか皆様へ提案していきたいと思います。私自身、「ああすればよかったな、もっとはやくにコレを知っていたら!」ということが多々ありました。
みなさんには私の体験談を叩き台にして、素晴らしく充実した日々を送ってもらいたいです。
模擬授業の大切さを知る
養成講座のゴールは「模擬授業」
いきなりですが、約6か月間の養成講座のゴールは「模擬授業」です。この「模擬授業」というゴールに向かうために日本語文法などの理論、机間巡視や板書計画、ドリルなどの実技あれこれを学んでいくことになります。
この「模擬授業」の良し悪しによって、
「この先生にうちの学校で働いてもらいたい!」
「技術はまだまだだが基本はしっかりしているから、うちの学校で経験を積んでいってほしい」
といった高評価を受けたり、
「おいおい、こんな基本のキの字も知らないで面接にきたのかよ!?」
「お高い養成講座でお客様気分で勉強していたんだね。できなくても修了させてもらったんだ」
「ひどい授業だけど教員が足りないからとりあえず採用して、数が足りたら真っ先に辞めてもらおう。そのときはいつものように『学生が少なくなってしまったから今回は授業をお願いできない。籍だけは残しておくことができますがどうでしょう』といっておこう」
といった評価を受けたりすることになります。
この採用面接のさいに一番重視される「模擬授業」は、養成講座の修了証をもらうためだけのものではありません。ですから、養成講座での授業は模擬授業につながることを意識して受講することが必要です。
「模擬授業」までの流れ
養成講座の「模擬授業」は、いきなり外国人の学生を相手に授業を実施するのではありません。
②教員の模擬授業を体験する。
③「ひらがな」などの超初級の模擬授業(5分程度)の教案(授業の計画)を作成する。
④作成した教案をもとに模擬授業をする。学生は養成講座のクラスメイトの日本人。
⑤日本語の文法を教える授業(15分程度)のための教案を作成。
⑥模擬授業を実施する。学生は日本人。
この15分程度の模擬授業を3~4回実施する。
⑦外国人学生を相手にした模擬授業の教案を作成。
このとき指導教員のチェックはかなり厳しい。
⑧ビクビクしながら教壇に立つ。外国人学生の視線が熱い。忖度なしの質問が飛ぶ。
⑨反省会。指導教員、日本人のクラスメイト、外国人学生から講評をもらう。
といった流れで本番の「模擬授業」に挑むことになります。
私は、模擬授業よりも「多文化・多言語主義」や「アイデンティティ」など言語と社会に関することに興味をもっていいました。日本語教育能力検定試験にも出題される項目なので興味をもって学ぶことはいいのですが、「模擬授業」のことは「ただこなせばいい」ぐらいにしか考えていなかったんです。上記の⑥、日本人相手の「模擬授業」はなんなくできたのです。いざとなれば日本語が通じる日本人の学生ですから。しかし、本番である「外国人学生への模擬授業」と「採用面接の模擬授業」ではそうはいかないのです。
「模擬授業」で「語彙コントロール」を磨け!
日本人相手だからと手を抜いていると「語彙コントロール」という問題に気付かないで採用面接を受けることになってしまいます。
以前、採用面接で面接官をしていたとき、こんな人がいました。
この文は助詞が抜けていて、分かりにくいかとおもいますが、何度も練習してみてください。
せんせい、すみません。「抜け」なんですか?
「にくい」なんですか?
「してみて」なんですか?
……えっと、あとで説明します。
ちなみにこの動詞は「ない形」ですから~
(まだ「ない形」勉強していないんだけどな~)
このように「語彙コントロール」ができていないと大惨事になります。これは面接官がいじわるしているわけではありません。実際に教室で「語彙コントロール」できていない会話をしようものなら外国人学生から質問の嵐が吹き荒れるのです。そして質問に答えられないと「日本語を知らない先生」というレッテルを貼られ、運良くその質問に答えられたとしてもかなりの時間を割いてしまい今日実施するはずだった授業ができなくなってしまいます。
ですから、日本人同士の模擬授業であっても「語彙コントロール」をしっかりすることが大切です。
語彙コントロールを磨くためには以下の2点をおすすめします。
②難しい語彙をやさしいことばで言い換える練習をしてみる。
①の学習した語彙の調べ方は、教科書の巻末に語彙リストなどがありますからそれを眺めるだけでもいいです。一度学生への説明を考えてから語彙リストを眺めると、「あ!このことばまだ習ってないんだ!」という発見があります。
②その発見から、未習のことばをやさしい日本語で説明するにはどうすればいいのかと考えることがいい練習になります。
「前の文を説明します」と言いたかったのだけど、説明ってことばをまだ勉強してなかったみたい。
じゃあ、「説明します」を
「おしえます。くわしいです」って言い換えてみようかしら?
「これはなんですか?おしえます」がいいかしら?
面接の模擬授業は形式的な儀式のようになった?
最近では日本語教師が足りなくて採用面接の模擬授業が「形式だけの模擬授業」になっている日本語学校もあります。「授業料を払い終わった学生がいるのに教師がいない」では大変ですから、採用する側はどんなに悪い模擬授業をしても採用せざるをえない事情があります。
しかし、これは待遇の悪いいわゆる「ブラック日本語学校」に顕著な現象です。ブラックではないにしても不動産屋が経営する金目当ての新規校でだれもきてくれない日本語学校などに顕著な現象だと思います。ちなみに不動産屋が経営しているから悪いのではなく、「儲かりそうだから新規参入した異業種の社長が教育理念なく開校し、教育側トップの意向を無視するためにやる気のある教員ほど辞めていく」ことが多いといいたいのです。いずれにしてもこれらの学校で「のびのびと仕事をする」ことは望めないでしょう。
もし「とてつもなく悪い模擬授業をしたのに採用され」、「研修をしてから」云々のことばもない場合は、日本語学校内部が疲弊している可能性が高いと思います。
そのような日本語学校では授業ができなくても学校側から教員にクレームがくることはないでしょうが、学生からは必ずクレームがきます。クレームならまだいいです。学生はあきらめて寝ます。静まり返った教室で誰も教師を見ない、誰も返事をしない、突然電話をもって教室からでていく……。恐ろしいです。授業前日の夜は胃がキリキリしてくるのです。
しかし、これは逆に、模擬授業が採用する側にとってのバロメーターであると同時に、採用される側が学校を評価するバロメーターともなることを示唆しています。
「模擬授業で失敗したのに採用されてラッキー!研修もないんだって、即採用!」といっているクラスメイトがいたら、「おめでとう!で、その日本語学校の名前はなに?」と、情報を収集しましょう!
文型の「導入」と「練習」はどちらも大切!でも量はちがう。
模擬授業に熱心な人が陥りやすい罠があります。それは素晴らしい「導入」を目指してしまい、「練習」をおざなりにしてしまうという罠です。
ちなみに「導入」と「練習」の意味は以下のようになります。
文型の「練習」は学んだ文型が使えるようにすることです。
カラフルな写真を何枚も用意して、本物のりんごやミカンを机に並べ、「私にしかできない素晴らしい導入をしたい!」と、私も思っていました。工作が好きな私は、分かりやすい授業のためだ!学生のためだ!という建前のもとで「導入」にだけ時間をかけていたんです。クラスメイトの反応も上々でした。
しかし、よく考えてください。
「おしゃれで簡単なBBQの作り方を紹介した料理番組」を見たら、その料理が作れますか?
その料理番組を見ながらならできるでしょう。
でも、真夏のビーチで
「きのう、あの番組みたんだから君がBBQ担当ね、よろしく!期待しているよ!」
なんて言われたら緊張でなにもできなくなってしまいませんか?
学生も同じです。
「きのう勉強したでしょ?はい、いってください!」
と言われても意味は昨日聞いたけど、練習をしていないので口からでてこないでしょう。
それなのに先生は「どうして教えたことができないのか」とため息をついてしまいます。
学生は「ぼくは能力がないのかもしれない」と落ち込む。
実際の授業では「導入」と「練習」の割合はちがいます。
例えば1コマの授業(日本語学校ではほとんど1コマ45分の授業です)なら、
10分程度で導入をし、残りの時間を練習にあてます。
多くの養成講座では教科書として『みんなの日本語』を使いますので、『みんなの日本語』の手引書をチェックしてみてください。(昔は使い勝手が悪いものでしたが新版では使いやすくなっています。おもちでないなら購入をおすすめします。)
面接のさいに模擬授業でも、導入だけでなく練習をきちんと入れることで教室での授業の様子をアピールすることができます。
「導入」を考えること、準備することは楽しいのですが、学生が日本語を使えるようにするための「練習」はもっと大切です。養成講座の授業の中で指導教員の授業を見る機会があれば「練習」の技を学んでください。また、授業見学をする機会があった場合もその学校の先生の授業の流れをメモすることをおすすめします。
日本語教師養成講座でのゴールである模擬授業への心構えを最初にもっていると、何となく勉強していたものが別の光を放っていることに気づくと思います。
次回は資格試験についてご案内します★
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